人と建物--中銀カプセルタワービル

久々に都心に赴いたので本屋でふらふらしてたら見つけた本。
都会の本屋は建築関係とか思想関係の本が充実してて、ふらふら歩いてるだけでも楽しいですね。

中銀カプセルタワービル 銀座の白い箱舟

中銀カプセルタワービル」の写真や住んでいる人たちのインタビューを集めた本。

黒川紀章の代表作として広く知られているビルですね。ハロプロ的には東スポの連載で℃-uteが撮影してました(ものすごくどうでもいい情報だ)。
メタボリズムの代表作として、カプセルを積み重ねることで出来ています。カプセルを交換できる構造になっているけれども、実際はカプセルを交換されたことはない。近年は老朽化で建替をするかどうかでもめていることまでは知ってました。

作品として興味あってパラパラめくってみると、「雨漏りがひどい」「お湯が出ない」「寒暖の差が激しい」「湿気がひどい」「手狭になってきた」とかそんな世知辛いエピソードが色々出てきて面白くなってつい購入。
有名建築の本ってどうしても、設計者の意図と綺麗な写真が前面に出てきがちですが、「数十年経過した写真」と「住んでいる人の声」が並んでいるっていうのはとてもおもしろいですよね。

メタボリズムの皮肉

自分も昭和50年ぐらいに作られた鉄筋コンクリート製アパートに住んでたことがあるのでわかるんですが、この時期に最先端とされていたのか無駄にセントラルヒーティングとかセントラル給湯器?とか多くて、見事に使えなくなってる笑。そして、アスベスト問題で修理できない笑
小島信夫抱擁家族』で、米兵に妻を寝取られた夫がセントラルヒーティングの家を建てる描写がありますが、アメリカ的なセントラルヒーティングへのあこがれが強かったんですかね。

閑話休題、そういった冷暖房、水回り、雨漏りといったあたりに問題を多く抱えていってるらしく、大変興味深く読みました。カプセルごとに交換するコンセプトが故にカプセル未満の設備の修理・交換がしづらなくなっているというもなかなかの皮肉なものですよね。

また、手狭になってきているというも面白くて、カプセルがそれぞれに独立性が高いがゆえに壁をつなげるとかしづらいってのも皮肉ですよね。
メタボリズムのコンセプトに、そこから成長していく、というのがあったかと思うのですが、それが逆に足を引っ張ってしまっているというか。

でも、結果的にカプセルが交換されなかったがゆえに、各所有者が各々修理していき、「無個性で画一的なカプセル」の積み重ねが個性をもったカプセルに変化していったというのも面白いですよね。設計者の意図と違った方向で、進化していったメタボリズムというか。ある程度、成長の方向性を決めたプラットフォームを作っても、その上に育っていたのは別の方向性だったというか。

都会のセカンドハウスというコンセプト

中銀カプセルタワービルって有名な建物ですが、結構なんのための建物なのか知らない人も多いかと思います。
実は自分も知らなかったんですが笑、都心での「逆別荘」ともいうべきセカンドハウスやオフィスとしての利用を見越して作られたとのこと。
だから、洗濯機置場がもともと常設置き場設置されなかったし、最初から設備をはめ込んだユニットとして作られていたというのも納得できます。

これとても面白いな、と思っていて、実際つくば市に住んでいると都心のセカンドハウスめちゃくちゃ欲しい笑
終電を気にせず、ふらっと週末に東京に遊びにいった際に拠点となる場所があるのはいいですよね。実際、オフィスとしてや別荘として使っている人のほうが多いようです。

このコンセプト自体がメタボリズム的というか、人口増大とともに都市は拡大することを前提に(=都心からの距離は離れていく)、都心にセカンドハウスが必要となっていくだろうというこが前提のコンセプトですよね。今はどちらかというとコンパクトシティとかが注目されているし、こういったところでも時代を感じてしまいます。

カプセルというコンパクト感

この本を買った理由としては前述のとおり有名建築と住んでいる人たちの声のギャップに惹かれたからなんですが、写真から伝わってくるのカプセルの「秘密基地」感が気に入ってきました。
とにかく狭い。そして、窓が大きい。けれども、窓は一箇所しかない。この窓が一箇所しかないというのは結構重要なのかな、って思います。

外観はメタボリズムを意識していながら、内部はミニマムで閉鎖的な空間を構築されている。デザイナーズ住宅とか開放的な空間!とかコンセプトがとても多いですが、人が多く行き交う都会だからこそこうした閉鎖的で個人的な空間の重要性を黒川紀章は理解していたのかなと逆に思います。
窓を複数面につけてしまったり、一面であっても全面ガラスにしてしまわず、秘密基地から外を覗くかのような丸い窓をつけたのも、それを理解していたからかな、という気もします(何も調べてない妄想ですが)。

実際、数百万円で買える(らしい)という話を聞くと、都心でのセカンドハウスがほしいという理由もあり結構心ひかれます。ただ、実際メンテナンスが難しそうなのが難点ですが、いつか買いたいですね。

有名建築と実際住んでいる人に注目した本というだけでも面白いですが、編纂した人の愛が伝わってくるいい本でした。