アイドルオタクがアイドルを嫌いになってしまう瞬間――有安杏果と鞘師里保

とあるももクロファンが書いた今回の有安杏果の卒業に関する記事とその反応を興味深く読んだ。

 

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はてなブックマークコメントは「オタクきもい」「アイドルオタクってどこまで傲慢なんだ」「仕事は誰にとっても辞める権利がある」といった正論で埋め尽くされている。そして、これらは間違いなく正しい。彼女たちにはいつでも辞める権利がある。

でも、自分は一アイドルオタクとしてこのももクロファンの気持ちが痛いほど分かってしまう。

執着ゆえの愛憎。醜いけど、そしていけないことかもしれないけど、ブコメで正論をかざしている人より間違いなくももクロへの愛はある。

アイドルは「未来への可能性」を期待させることで、物語を紡ぎ、ファンとの間の甘い共犯関係を作る。特にももクロはあかりんとの約束、紅白、国立とそうした夢をかなえることで、ファンとの信頼関係を築いてきた側面がある。それが裏切られるのだから、ファンとしてやりきれない思いがあるのは想像できる。

杏果は結構後になるまでメンバーに心を開いてなかったことを『Quick Japan vol.105』上のインタビューで告白し話題になった。もちろん、杏果が後から加入したこともあるだろうけど、本質的には他のメンバーと性格の差があったことが最大の理由だろう。

「元気」「全力」がテーゼのももクロにおいて、やや陰のあるアイドルとして逆説的に杏果はカルト的な人気を持っていた(もちろん高いパフォーマンススキルも人気の一つではある)。

そうした4人と杏果の関係を分かりつつも、卒業発表まで見ぬふりをしていたというこのブログ主感情は痛いほど分かる。何故なら、自分もあるアイドルの卒業の際に似たようなこと思ったからだ、そのアイドルの名前は元モーニング娘。鞘師里保である。

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鞘師里保という存在

先に断っておくが、私が一番好きなアイドルは元モーニング娘。工藤遥である。

工藤遥は2017年4月に卒業発表をして、12月にモーニング娘。を卒業した。卒業発表後からは、ハロコンでの工藤センターの『I wish』、本人の要望が入った卒業ツアーのセトリ、つんくの手による工藤の愛称の入った卒業シングル、24台1000人が参加したバスツアー、ソロイベント、武道館での卒業コンサート、特別な卒業衣装、便乗で出るグッズ、書籍etc......とハロプロ卒業フォーマットを全てをコンプリートしていくような卒業していった。

これらを「卒業商法」と斜めに見て揶揄するのは勝手だけど、これらのイベントはオタクにとっても楽しかったし、オタクにこれだけのイベント、時間的、精神的猶予をくれた工藤遥さんに感謝しかない。楽しすぎて直前まで全然実感がなかったという難点はあったけど

 

そんな比較的穏当な形で卒業した工藤遥と対照的な形で、モーニング娘。を卒業したのが2015年12月31日に卒業した鞘師里保だ。彼女は10月末に卒業を発表して、12月末で卒業した。

もちろん、今回の有安杏果の例や某ファクトリーなどの例に比べれば、2ヶ月程度の猶予はあったわけだから、まだ恵まれているわけだけども、彼女は他のメンバーとは違う子だった。

 鞘師里保は当時のモーニング娘。の絶対的エースだったからだ。

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 センターにいるのが鞘師

 

ハロプロももクロなどのアイドルと違う文化がある。ハロプロはアイドルとしては異常な程にパフォーマンススキルを重視する。

当然、ハロプロの「エース」と呼ばれるメンバーは(この文脈ではエースとセンターはほぼ同義である)、パフォーマンスをする際に中心となる存在となる。

そのハロプロに所属するモーニング娘。でエースと呼ばれたのが、鞘師里保なのだ。

 

彼女は2011年オーディションの時から持っていたものが違った。12歳とは思えないぐらい激しく、そしてしなやかなダンス。オタクたちはその可憐な表情と高いダンススキルに惚れ込んだ。そして、おそらく事務所もそうだった。

 

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鞘師はモーニング娘。のオーディションの前に、同じ事務所の舞台オーディションで合格を勝ち取っている。その直後に、モーニング娘。としては4年ぶりとなる新メンバーオーディションを開催している。

真偽は分からないけれども、当時、興行的には振るわなくなっていたモーニング娘。の解散を事務所はある程度考えていたとも言われる。そこに鞘師がやってきたからこそ、出来レースのような新メンバーオーディションを開催した、とも見てとれる。鞘師の才能が、モーニング娘。を存続させる決断をしたとも言っていい。それだけの才能だったのだ。

12歳でモーニング娘。に加入した鞘師は、めきめきと頭角を現していく。デビューツアーで高橋愛新垣里沙という10年戦士と肩を並べて、3人で踊った『Moonlight night~月夜の晩だよ』は伝説として語り継がれている。

 

アイドルのメインボーカルとしてはキーが低いものの、表現力豊かな歌唱力と格好いい曲を歌う時のドヤ顔はまさにエースの貫禄だった。

 

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グループの方向性はエースが決める、というのを教えてくれたのも鞘師。鞘師や石田亜佑美のダンススキルを活かすために、モーニング娘。はダンスに力を入れていった。結果として、外部に対してはフォーメーションダンスというキャッチフレーズを売ることに成功した。高音ボーカルが持ち味だった田中れいなが卒業後、ボーカルの中心は鞘師を中心になり、全体的にグループのキーが下がった。グループのキーはエースに合わせて決まるからだ。

まさに20年続くモーニング娘。の歴史を変えた存在の1人でもあった。

 

 鞘師の卒業

10年以上モーニング娘。に在籍した道重さゆみが2014年を持って卒業し、若いメンバーだけで立ち向かった2015年のモーニング娘。

15春ツアーではエースとして圧倒的なパフォーマンスを見せつけ、これからの明るいモーニング娘。を予感させた。

そんな鞘師だったが、2015年10月末に年内いっぱいでの卒業を発表をした。

 

道重が25歳で卒業したのに対し、17歳での卒業。上に書いたとおり、ハロプロで円満な卒業発表であれば発表から卒業まで半年程度間をとるはず。グループ内の存在感、人気、年齢いずれをとっても卒業する理由などない。
公式には「ステップアップのため」とされたが、何らかのトラブルが起きたことは明白だった。

実は予感はあった。
2015年夏に体調を崩して、コンサート、イベントなどを五日間ほど休んだのだ。病名等は発表されず、本人はラジオで「起き上がれなかった」と供述しており、メンタル面を心配する声が上がっていた。
また、15年の鞘師は体型の変化が激しかった。もちろん10代の女の子なので、多少の体型の変化はあるだろうが、この年は今までにないぐらい太り始め、ここでもメンタル面を心配する声が上がっていた。

もちろんメンタル面が卒業の引き金になったかは分からない。永久に明かされることもないだろう。
しかし、ミドルティーンでモーニング娘。という老舗アイドルグループのセンターを任された子の重圧は計り知れないものはあったのは想像に難くない。

また、大人であり、広告塔として外圧に対して防波堤であった道重もこの年からいなくなったこともあるだろう。

もちろん鞘師にはそれだけ多くの人が期待してしまう才能はあった。しかし、本人は17歳の内向的な女の子であった。メンタルがプレッシャーに耐えきれなくても不思議ではない。

自分も鞘師に大きな期待していたものとして、時々今でも自責の念にかられる。もちろん、自意識過剰ではあるのだけれども、その周りの大人やオタクたちの期待がプレッシャーになっていたのも間違いないだろう。
卒業前にラジオで武道館等大きい会場の前には点滴を打っていた、と語っていてつらい気持ちになった。
もっと伸び伸びと彼女がパフォーマンス出来る環境を築いてあげれなかったのは、周りの大人でありオタクたちの責任でもあると思う。

ただ、同時に鞘師を責める気持ちがあるのも事実だ。
鞘師は自分の推し(工藤遥)が願っても願っても立てなかったセンターを任されていた。そんなセンターの地位を捨ててまで得たいものって何なの?
安倍なつみが、後藤真希が、石川梨華が、高橋愛が、守って受け継いできたモーニング娘。のエースの座を放り出すの?

という思いはどうしてもすてきれなかった。もちろんわがままなことは分かっているし、それが本人へのプレッシャーになってることも分かっている。だけれども、鞘師に期待せざるを得なかった。モーニング娘。というグループのために。
鞘師が20歳になって最高に成熟したパフォーマンスをみせるモーニング娘。を見たかったし、その夢を裏切られたという思いは正直言うとある。わがままと分かっていても。

鞘師に対して「申し訳なさ」と「責める気持ち」を抱えたまま卒業を迎え、早二年経った。
自分の推しの卒業を迎え、鞘師についてはやっと気持ちの整理がついてきたので、今このブログを書いている。

 

なので、今回のブログ主が卒業発表直後に有安杏果を責めるようブログを書いたことに対しては全く責める気持ちにはなれなかった。
愛ゆえに憎んでしまう、このアンビバレンツな気持ち。人間だもの。

このブログ主はももクロは4人+ももかと分かっていても見ないふりをして5人を応援してきたと書いているのもすごくわかる。自分も今だからこそ冷静に書いてるが、鞘師の出してた予兆、SOSには気のせいと気づかないふりをしていたから。

 

でも、二年も経つと本人たちの人生は人生、と思えるようになってきた。

有安杏果が、鞘師里保が、そして工藤遥が幸せな人生を送ってくれればオタクは嬉しいもの。

 

今日、卒業する有安杏果さん、卒業おめでとう。幸せになってね。 

鞘師里保が最高のダンスをNYで学んで、伸び伸びとパフォーマンスしてくれる日が来るのを待っている。

 そして、工藤遥さんルパンレンジャー出演おめでとう!!!