全ての人を「かわいい」として肯定するということ--大森靖子と道重さゆみ

ビバラポップ

少し前の話になりますが、5/6、さいたまスーパーアリーナにビバラポップという名のアイドルフェス(?)を見に行ってきました。

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今回のフェスはモーニング娘。OGの道重さゆみの大ファンで知られる大森靖子さんがプレゼンターとなり*1、道重さんがソロで出演するということで「これは絶対見なくては!」と思い行くことに。

大森靖子さんと相撲を取る和田桜子さんもめっちゃよかったし、圧倒的歌唱力で初恋サイダーを歌って無邪気な笑顔で去っていく鈴木愛理さんもめっちゃ良かったし、BISH-星が瞬く夜に-はめっちゃ盛り上がってたし、ちょっとよそ行きで緊張してる道重さゆみさんももちろん超かわいかった。愛ちゃんとさゆにセクシーキャットの演説を歌うようにリクエストした大森さん最高すぎ*2

大森靖子さんのある言葉

道重さんのパフォーマンスが終了後、大森靖子さんのコラボコーナーへと続きます。
その中で忘れられないシーンに出会います。その話をインターネットの片隅に書きたいなぁ、と思ったので、今このブログを書いています。


アルバム『絶対少女』の表題曲(?)「絶対彼女」は「ディズニーランドに住もうと思うの~」から始まります。ビバラポップでは欅坂46の人気メンバー・長濱ねるさんとのコラボ曲。その時の長濱さんは白いワンピースを着ており、まさに“絶対女の子”です。

「絶対彼女」は「絶対女の子 絶対女の子がいいな 絶対女の子 絶対女の子がいいな」というフレーズを繰り返します。
そこでそのフレーズを会場のファンたちに歌うことを要請してきた大森さんは「まず男の子からー」と言ってきたのです。


えっ!?今なんて言いました??


確かに、女性アイドル含めライブのコール&レスポンスで「男性」と「女性」で分けることは珍しくありません。アンジュルムのタケちゃん*3なんかはあいさつのたびに「男子―」「女子―」って声かけます。

でも、「絶対女の子がいいな」という歌詞をわざわざ男性に限定して歌わせるの!?マジで!?という驚き。
ちょっと今までのライブでは体験したことない驚きです。もしかしたら、大森靖子さんのライブでは普通なのかもしれませんが。

とはいえ、「絶対少女」は割とヘビロテして聞いていたアルバム。大森さんのファンの人や道重さんのファン、その他いろんなアイドルのファンの人と一緒に合唱します。

男の子、女の子、会場みんなという順番で合唱したあとで、大森さんは会場に「かわいく生きられる人ー?」と問いかけます。そして、会場のみんなの手をあがる。満足気な大森さん。

なかなか衝撃です。自分も可愛く生きられる人として認められたのです。30年男性として生きてきて、可愛く生きることがここまで肯定されたのは初めてです。個対個レベルではあったとしても、こんな大会場で肯定されるなんて。

このやり取りは本当に心から印象に残りました。

大森さんを初めて知ったのは2013年ぐらいで、きっかけは大森さんがハロプロショップでハロプロカバー弾き語りをしたネットまとめを読んだこと。そのあと、道重さんをテーマにした楽曲「ミッドナイト清純異性交遊」の入ったアルバム『絶対少女』を購入してよく聞いてました。その頃のインタビューで「すべての女子を肯定したい」とご本人が語られているのもみたし、そうした文脈でよく見出しもつけられていました。

それを見て、男性である自分はある種の居心地の悪さは感じていたし、大森靖子の男性ファンが多くいることは知りつつも、そこまで関心が持てない理由の一つではありました。

ところが、大森さんはこの一連のやり取りで、社会的に様々な性を与えられている会場のいろんな人を「女の子」にしてしまい、まるっと「かわいい」で肯定してしまったわけです。

男性限定ライブで行われるものへの違和感

世の中には女性限定ライブというものがあります。楽しそうな企画をやったり、キラキラした企画をやったりしています。対して、男性限定ライブというものも数は少ないながらあります。
そこで繰り広げられるものは、男性の演者であれば下ネタトークをかましたり、女性の演者であれば過度に男性的モチーフ(力強さ)を取り入れたライブといったものです。

もちろん、それが楽しい人という人はいると思います。
でも、自分はそうした男性限定ライブに違和感を覚えていました。下ネタで「男の連帯」を確かめあうホモソーシャルコミュニケーションは嫌いだし、マッチョさと女の子を組み合わせて違和を面白がるというのもとうに飽きました。

そういうマッチョさみたいなのが男性は好きでしょ?と思って主催側は繰り出していると思うのだけれども、自分は全然好きではない。というか、そんなのが好きだったら女性アイドルを見に行ってない。

とはいえ、(一対一と違い個別の事情に配慮できない)ライブという大会場で男性がそうした趣向を持つ人たちという目で見られることには諦めを持っていました。

なので、男女関係なく(おじさんも含めて)「絶対女の子」と歌わせたあとに、可愛くいきる「女の子」として全員を肯定したのに本当に驚きました。

ライブに人生で多分100回ぐらいは行ってると思うけど、「かわいい」として肯定されたの初めてだ!、と。

もちろん自分が女性アイドルのようにかわいい存在でないことは分かっています。
でも、自分が男性だからといって、かわいいと肯定されるのがダメなわけでもない。強そう、なんかよりもかわいいで肯定された方が自分はやっぱり嬉しい。

会場にいる色んな人を長濱ねるもアイドルファンの女の子もアイドルオタクのおじさんもみんなみんな「絶対女の子」で「かわいい」で肯定する大森靖子さん。とても嬉しかったし、その肯定のパワーを感じました。

それと同時に、そのやりとりである人の名前も少し思い出しました。
大森靖子さんがファンと公言してやまない道重さゆみさんです。

道重さゆみとファンの関係

道重さんのモーニング娘。時代のメンバーカラーはピンクです。女性アイドルグループのメンバーカラー・ピンクは、「ザ・アイドル」「女の子中の女の子」みたいなメンバーしか着けるのを許されない、特別な色です*4

ハロプロのライブに行くと、(当然メンバーカラーの)ピンクの服を来たおじさんが、アイドルのダンスの真似をしていたります。
まあ、端的に変な人です。気持ち悪いです。中野サンプラザでなら許されても、中野駅前では許されなさそうです。
だけれども、そうしたオタクたちを道重さんは、「私のファンの人たちは変な人たちです」「変な人たち、サンキュ」と肯定していきました。

世間的には毒舌で知られる道重さんですが、「自分のことが好きな人のことは好き」というポリシーはずっと一貫してました。長年当時の事務所の方針もありバースデーイベントを開けず、ようやくイベントが開催された際に、「ネットで私とケーキの写真を撮ってお祝いしてたのを見てたから、なんとかして祝わせてあげたかった」と語っていたのが印象に残っています。二次元三次元問わずオタクがよくあげる類のバースデー写真ですが*5、どちらかというと客観的には気持ち悪いの部類に入りそうな文化でしょう。でも、それをまるっと肯定するのが道重さんです。

メンバーカラーがピンクゆえに、どうしてもおじさんがシャツを着たりすると、珍奇な格好になりがちでしたが、そうしたファンを「私のためにそうしてくれるのは嬉しい」と度々話していました。

普通なら眉を顰めそうな変な人たちまで、まるっと肯定するのが道重さんという人です。そうした道重さんをファンの人たちもとても信頼しています。

そうした道重さんの姿勢を大森靖子さんも当然のように受け継いでいるのだと思います。
その場にいる全ての人を肯定するマジック。それが道重さんなら「変な人たちサンキュ」で、大森さんなら「かわいく生きる」なんだと思いました。

鏡で自分を肯定するということ

その後、ビバラポップは大森さんの楽曲「マジックミラー」を道重さんとコラボして大団円を迎えます。

かつて、劇場の観客を写すことで、合わせ鏡を作り、現実に帰れというメッセージを込めた映画がありました。
でも、道重さんにとって鏡はモーニング娘。加入当初から「よし、私今日もかわいいぞ」と自分を肯定するための大事な存在です。まさに言葉通りのマジックミラーです。
その2人が歌うマジックミラー、自分の中で鏡の意味合いが大きく変わった一日でした。

絶対少女

絶対少女

*1:プレゼンターってなんだ

*2:あとサユミンランドールに提供した大森さんの二曲も最高なので、大森さんへの感謝の気持ちが高まっている

*3:竹内朱莉なるアイドル

*4:個人的にピンクのメンバーの子は「女の子(アイドル)であることに自覚的である女の子(アイドル)」と「ザ・天然の女の子」の二パターンあると思っています。Berryz工房/カントリーガールズの嗣永桃子さん(ももち)やももクロ佐々木彩夏は前者だし、現モーニング娘。'18の牧野真莉愛さんは後者のイメージです。 でも、道重さんは半々で両者が入り混じったようなところがあります。 ももちと道重さんを並べて、「アイドルのプロ」「全身がアイドル」と称している人がいるけれども、ももちと比べると道重さんの方がどうしても人間っぽいな、って思います。でも、そうした人間っぽさも含めて「道重さゆみ」というアイドルなので、全身がアイドルというのは間違えていないと思います。本筋にはあまり関係ないけど、さゆのことを話したかっただけの注釈でした

*5:知らない人は「矢澤にこ ケーキ オタク」とかでググってください