大学生活に悩んだすべての人に観てほしい————『ユニークライフ』シーズン3

Netflixオリジナルドラマ『ユニークライフ』シーズン3が大学生活を送った者として胸に刺さりまくったので紹介したい。

 

自閉症を抱えるサムと家族の物語

『ユニークライフ』、原題は"Atypical"(非定型)。この原題を見ただけでも関心が高い人はピンと来る人はいると思います。そう、自閉症スペクトラム障害をかかえるサムを主人公にしたドラマです。2020年現在、シーズン3まで公開されています。

 

 

『ユニークライフ』はサムの物語ですが、同時にサムと家族のホームドラマという側面も強いお話です。救急救命士の父・ダグ、世話好きで美容師の母・エルザ、そして陸上競技が得意な妹・ケイシ―の4人家族の話が中心。

それにサムのカウンセラーのジュリア、サムのガールフレンド・ペイジ、サムのバイト先の同僚兼ベストフレンドのザヒード、ケイシーの恋人・エヴァンあたりがメインの登場人物でしょうか。

 

大学に進学するシーズン3

 

シーズン1、2までは高校生だったサム。同じ自閉症自助グループの子たちに刺激を受けて、大学進学を決意します。そして、シーズン3はいよいよ大学に進学します。

 

 

しかし、大学入学前に自閉症の学生のうち5分の4は大学を4年で卒業できていないことを知ったサム。5分の4という数字に囚われたサムは履修登録がうまくいかなかったことを理由にガールフレンドのペイジに八つ当たり。妹のケイシーに諭され、サムはペイジに謝罪し、ペイジからは「あなたは5分の1になるんだから」と説得されます(それに対するサムの答えは「論理的ではない」ないですが笑)。

大学はカリキュラムも複雑で双方向型の授業も増えてきます。友達との情報共有やコミュニケーション力が大学生活を生き抜く鍵になっていくのは言うまでも日米問わずでしょう。
また大学には今まで学校でサムをサポートしてきてくれたケイシー(ケイシーが陸上推薦で転校する際には何度もサムがクローズアップされた)や別の大学に進学するガールフレンドのペイジもいません。不安になるのも無理はありません。

大学生活の躓き

入学したサム。先輩主導のオリエンテーションに不安を覚えていたサムは、最初の自己紹介を兼ねたレクリエーションを先輩に直電してきいたテクニックで乗り切ります。その受け答えを気に入ったノリのいい同級生に声を掛けられ、「友達が出来たんだ」と舞い上がるサム。友達に誘われ支援のための面談の予定をすっぽかし、友達とご飯を食べに行きます。
順調なスタートを切ったサムは、家に帰った途端、「寮に入りたい」と宣言。両親の大反対にあいます。
寮入りを応援するケイシーと一緒に寮に見学に行ったサムは、そこで例の"友達"と再会するもバリカン罰ゲームの真っ最中。当然、サムは"友達"に名前も覚えてもらえていないというオチ。口は悪いですが、イジメに対しては厳しいケイシーが"友達"に辛辣でよかったですね。
その後、いろいろと大学生活に行き詰ったサムは支援グループの門を叩きます。そこでは、馴染みのグループの仲間たちが待ち構えており、支援を受けることでサムは再び大学生活に向き合いはじめます。

『ユニークライフ』シーズン3はこういう大学生活の「小さい躓き」の連続です。サムはちゃんと躓きと認識し、向き合って乗り越えていくのがこのシーズン3です。大学のこうした仕組みには戸惑いや小さい躓きを覚えている人も多いと思います。「あっ、自分の大学生活ここで失敗したな」とか「ここは運よく友達のおかげで乗り越えられたな」とか色々思いだしてしまいます。

 

みんなが躓く物語

 

『ユニークライフ』は自閉症スペクトラム障害を持つサムを中心とする物語ですが、サム以外の人たちも何か少しずつミスを犯していきます。
サムの父のダグは、過去にサムに向き合うことが出来なかったことがあり、そのことは夫婦関係に暗い影を落としています。母のエルザは、シーズン1で浮気をしたことが、離婚騒動はシーズン3まで尾を引いています。エルザは浮気騒動の際にダグが空けた穴を塞ごうとして、携帯電話を壁の隙間に落としてしまうなど、おっちょこちょいな面も頻繁に描かれています。
美人で運動神経抜群の妹・ケイシーは勝ち気が強く、暴言に怒り暴力事件を起こしたことが転校先まで伝わっています。チューバを盗んで学校を退学になったケイシーの恋人・エヴァンは、ダグに頼み込んで実施してもらった救急救命士の試験をすっぽかします。ジュリアはサムを𠮟責したことにより、サムのカウンセラーから外れます。そして、ペイジはサムにテレビ電話(zoom?)で「大学生活はうまく行っている」とアピールしながら、実際は全然うまく行っておらず、ある日中退し故郷に戻ってきます。そう、自閉症スペクトラム障害という診断をされていない人でも、躓くのが大学ひいては人生の難しさでもあります。

ペイジはちょっと変な子ですが、とても優しい子として作中で描かれています。サムとは付き合ったり別れたりと一般的な恋人関係にはなかなか当てはまらない関係ですが、サムのためにサイレントの卒業パーティーを開いたり、サムの卒業アルバムの寄せ書きに悪口を書かれたことを知ると、自分のことのようにブチ切れます。
確かにちょっと空気が読めない優等生が、大学での友達とのコミュニケーションに躓き、挫けるのも容易に想像できます。サムにペイジがテレビ電話越しに「ルームメイトが寮ネズミって言われているのよ、ひどいでしょ」って言ったあと、Macbookを閉じたペイジの寮の部屋にはペイジを除いて誰もいないという映像はインパクトがあります。そして、廊下に出たペイジは寮の仲間に「寮ネズミ」と言われます。そうペイジがルームメイトの話としてサムに伝えた話はペイジ自身の話でした。

本当はペイジもカウンセラーなどによる支援が必要だったのでしょう。だけれども、ペイジを救う人は大学に誰もいませんでした。

 

支援を受けられる強さ


シーズン3は自分の障害と向き合い適切な支援を受けられ、そして抽象的な課題に躓きながら取り組んでいくサムの強さが印象に残ります。寮生たちによるからかいに対して暴力事件を起こしたことで大学を退学し、故郷に帰ってきたペイジはサムの運転手や飲食店でのバイトで糊口をしのぎます。落ち込んでいるペイジですが、負けず嫌いを発揮して来年公開予定の新シリーズでは新たな活躍が見られるのではないでしょうか。

シリーズ3は看護学校の試験をすっぽかしたザヒードを試験のため連れ戻すサムが奮闘するエピソードで終わります。ザヒードが看護学校に進むよう手を尽くしたサムは、「看護学校で失敗させない」と言うザヒードとの約束を守るためにサムは奮闘します。そう言葉通り受け取るサムだからこそ。ザヒードもサムの支援が必要なのです。

大学など高等教育機関を卒業するのは言うほど簡単ではないです。簡単だったよ、という人もいるでしょうが、その人にとって簡単だっただけで、中等教育とはまた違う制度に"躓く"人も少なからずいます。『ユニークライフ』は自閉症スペクトラム障害を持つサムの成長物語ですが、幅広い人にも当てはまる内容です。支援が必要な時にちゃんと支援を受けられる大事さと難しさ、適切な支援を要請できるサムの強さが印象的なシーズン3でした。