こぶしファクトリーはどこで間違えてしまったか────順調なデビューから無観客ラストライブまで

こぶしファクトリーは5年で幕を閉じた

2016年に発売された3rdシングルに収録されている「サンバ!こぶしジャネイロ」でこぶしファクトリーはこう歌っている。

「将来のニッポンのヒーロー どこで何しているだろう?
 みんな他人事じゃねぇよ 4年後はTOKYO」

当時在籍していたメンバー・藤井梨央とブラジルのサンバにひっかけたこの曲はリオデジャネイロオリンピックに合わせて発売され(特にコラボとかではない)、2020年東京オリンピックを控え再度披露される機会も増えていた。

しかし、こぶしファクトリーは2020年3月に解散することを発表。東京オリンピックを迎えることなく、こぶしファクトリーは幕を降ろすこととなってしまった。

このニュースを聞いたときに、「どこで間違えてしまったのだろう」と思ってしまった。

2010年代にデビューしたハロプロの正規グループは、スマイレージ/アンジュルムも、Juice=Juiceも紆余曲折がありながらも、毎年武道館クラスの会場で公演を行うグループに成長したし、今も続いている。その系譜のグループにいずれこぶしファクトリーもなっていくだろう、という甘い期待をハロプロファンの誰しもが持っていたと思う。

しかし、現実はコロナ禍の影響で3月30日にTDCホールでの無観客解散ライブを行い、こぶしファクトリーのたった5年の歴史に幕を下ろした。

もちろん、5年という歳月は10代の少女たちにとってとても長いものである。とはいえ、ハロプロにはBerryz工房℃-uteといった10年以上続いたグループもある。Berryz工房のスピリッツを受け継いだという建前が名前の由来になっている「こぶしファクトリー」もそういった歴史を紡いでくれるのではないか、という淡い希望もあった。卒業メンバーはいるかもしれないけど、5年で幕を閉じるグループになるとは誰も思っていなかっただろう。

なんでこうなってしまったのか。

どうしてもそう思ってしまうのだった。

順調なデビューを飾ったこぶしファクトリー

2014年末、モーニング娘。を引っ張っていた道重さゆみが卒業し、長年ハロプロのプロデューサーを務めていたつんく♂がプロデューサーから降りることが発表された。
そうした「ポストつんく♂」時代を見据えて、ハロプロ研修生の8人で結成を発表されたのが「こぶしファクトリー」だった。新ユニット結成・デビューが発表された際の浜浦彩乃の涙は多くの人に印象を残したことだろう。

とはいえ、2015年新春、ハロプロのオタクたちは忙しかった。Berryz工房はラストを控え、℃-ute矢島舞美モーニング娘。以外のメンバーでは初めてとなるハロプロリーダーに就任。道重さゆみが卒業し、新メンバーを迎えたモーニング娘。'15は若いメンバーが引っ張っていたし、スマイレージから名前を変えたアンジュルムは「大器晩成」でヒットを飛ばしていた。そして何より、嗣永桃子Berryz工房活動終了後に移籍する予定となっていた新グループ「カントリー・ガールズ」は「うたちゃんフィーバー」でオタクたちの話題をさらっていた。

そんなハロプロ全体がお祭り騒ぎの中、まだグループ名すら決まっておらず、長く研修生に在籍した浜浦彩乃の名前をとって「浜ちゃんズ」とオタクに言われていた「ハロプロ新ユニット」(のちの「こぶしファクトリー」)はやや埋没気味だった。とはいえ、こぶしファクトリーが頭角を現してくるまではあっという間だった。2月に「こぶしファクトリー」という奇妙な名前と初のオリジナル楽曲「念には念」をもらうと、名前の通り「こぶし」の効いた歌い方とノリのいい楽曲でハロプロ各グループのオープニングアクトで話題をさらった。

あれよあれよ、という間にメジャーデビューが決定。9月には「ドスコイ!ケンキョにダイタン」でメジャーデビューを果たす。両面A面シングルの「ラーメン大好き小泉さんの唄」はシャ乱Qのカバーであると同時に近年のハロプロでは珍しくドラマタイアップが決定。年末にはハロプロではスマイレージ以来となる日本レコード大賞最優秀新人賞も受賞し、順風満帆なデビューイヤーを送った。
2016年もその勢いは続き、KANの曲のカバー、ヒャダインによる楽曲提供といった新たな展開を見せた2ndシングルではオリコンウィークリーチャート1位を獲得。冒頭の「サンバ!こぶしジャネイロ」というちょっとふざけた楽曲はそんなイケイケの頃の楽曲だ。「かわいい」を武器にしたカントリー・ガールズに対して、「こぶしの効いた歌」「なんか面白い」「力強い」を売りにしたこの頃のこぶしファクトリーの集大成が2016年11月に発売された1stアルバム「辛夷其ノ壱」だろう。アルバムの最後に収録された「辛夷の花」という楽曲はMVも作られ、今までのアイドル楽曲にはあまりなかったフォークソングのような曲は大きな話題となった。グループ名ともつながるこの曲はいまでも代表曲としてあげられることも多い。


こぶしファクトリー『辛夷の花』(Magnolia Factory[The Kobushi Magnolia Flower]) (MV)

挫折、そして

上記の通り、こぶしファクトリーは順調なデビューを飾った。その象徴が2017年初頭に公開された映画「JKニンジャガール」であろう。公開規模は小さく、やや内輪感はあるものの、ハロプロのグループが主演する映画が作られるのはここ数年なかったことであり、事務所のこぶしファクトリーへの期待の入れ方が伝わる映画だった。

他のハロプログループと同じように、そろそろ単独ホールコンサート、そして武道館公演への道が見え始めた2017年、こぶしファクトリーに試練が襲った。

その内容は詳しくは書かない。2017年は新曲はシングル1枚しか出せず、年の初めには8人いたメンバーは年末には5人しかいなかったことで十分伝わるだろう。辞めた3人も前向きな辞め方とはいえず、三者三様なスキャンダラスな辞め方だった。順調なハロプロの若手グループだったこぶしファクトリーは挫折した。

アイドルは上り調子で「成長するイメージ」が大事だ。何なら、それで商売していると言っても過言ではない。AKBはメンバーが総選挙で順位が上がり、外部の芸能事務所と契約をつかむシーンをショーにした。ももクロは大規模な会場をいきなり与えることで、試練をファンと共に乗り越えることでファンと共に成長する一体感を作っていった。元を正せばハロプロの全ての始まりであるASAYANだって、素人がメジャーデビューを勝ち取るまでにフォーカスした番組だ。

そういうイメージが何よりも大事なアイドルにとって、8人中3人がスキャンダラスに辞めることは致命的だ。人気が落ちるということは、成長するイメージを描けないということにもなる。
実際、5人になることが決定した後、口が悪いオタクたちはすぐに「改名か」「新メンバーか」と噂した。デビューからの勢いは完全に失速し、ホールコンサート、武道館への夢ははるか遠くなったかに思えた。2018年5月につばきファクトリー中野サンプラザで合同ホールコンサートを行なったが、もしかしたらそれも2017年の出来事がなければ、単独コンサートだったかもしれない。側から見ると、こぶしファクトリーは低迷期を迎えていた。

自分たちの実力で再び立つということ

2018年の春、熱心なこぶしファクトリーのファンでなかった自分はひなフェスというハロプロ全体のコンサートでこぶしファクトリーを見かけてびっくりした。5人となり人数が減ったこぶしファクトリーは、自分が知っているこぶしファクトリーより何倍も歌に厚みが増していたのだ。

広瀬彩海井上玲音が抜群の歌唱力を持っていることは以前から知っていたが、驚いたのは他のメンバーの歌の成長だ。エースの浜浦彩乃は低音の力強いながらも、伸びやかな綺麗な歌声を出せるようになっていた。野村みな美はこぶしの中では高い音で歌えるようになっていたし、以前の子供っぽいビジュアルから大きく大人の女性に成長し、今までよりも何倍も表現できる幅が広がっていた。

そして、何よりの驚きは和田桜子だった。こぶしファクトリーのメンバーの中で一際体格が大きい彼女は、デビュー当初は大人しく、目立った歌唱パートもなく、大きな体を縮こめて端っこに立っているイメージが強かった。それ以前にも独特のキャラクターがうけて研修生時代につんくから賞を貰っている程度でそれほど目立つメンバーではなかった。
しかし、久々に見た和田桜子は大人っぽい声を操る魅力的なメンバーに成長していた。また、今までの自信なさそうな部分も経験を積んで自信がついたのか、はっちゃけた面白いトークも増えていった。
解散間際のアルバム曲で、和田桜子が歌い出しと落ちサビを務めた「アンラッキーの事情」が大きく評価されたのも当然だろう。
こぶしファクトリーはいつの間にか5人とも歌える魅力的なグループになっていたのだ。

とはいえ、前述した通り、イメージが大事なアイドル業界。そして、ハロプロには歌の上手いアイドルなんて他にも大勢いる。なかなか上昇のきっかけを掴めなかったこぶしファクトリーが始めたのがアカペラだった。

最初は井上玲音がボイスパーカッションを習うという謎の企画から始まったこのアカペラ企画は、想像以上に話題を呼んだ。そして、メンバーが減って危機的なグループというイメージから、歌がうまいグループというイメージに変わっていった。


こぶしファクトリー《アカペラ》念には念(念入りVer.)


このアカペラもこぶしのみんな歌えるという特性を生かしている。今までの楽曲でメインボールを務めてきた井上玲音がボイパを担当するため、メインボーカルを浜浦が担当するになる。アカペラはどうしても歌声が目立たなくなりがちだが、浜浦がパーカション組に負けない力強い歌声を歌えるようになったことによるところも大きいだろう。

特にLOVEマシーンのアカペラは屋外やショッピングモールで行われるリリースイベントでも披露され、そのキャッチーさと電子音の装飾の多さも再現したアカペラは多くの通行人の足を止めることに成功したはずだ


こぶしファクトリー《アカペラ&ボイスパーカッション》LOVEマシーン


こぶしファクトリーはアイドルグループのデビュー当初からの成長するイメージ戦略という面では失敗したが、彼女たちは実力で新たな未来を切り開いていったのだ。これがどれだけ大変なことはアイドルオタクなら分かるだろう。実力で人気を獲得するというアイドルとしては王道に見えて実は困難なことをこぶしファクトリーは成功させていったのだ。

実際、2019年には昨年できなかった単独の東阪でのホールツアー、このCDが売れない時代に2枚目のアルバム発売とこぶしファクトリーは再び上昇気流に乗り始めていた。

完成度の高さゆえの解散発表

ハロプロは近年、メンバーの加入・卒業が激しい。ファンとしては寂しい話ではあるが、10代後半で別の道を選ぶメンバーも増えている。その分、新メンバー加入も多い。
その中で、こぶしファクトリーはオリジナルメンバーから減っただけで、途中からのメンバー増員は最後までなかった。

5人になったこぶしファクトリーの結束は強くなっていた。もともと中心メンバーがハロプロ研修生の古参メンバーという仲良しグループという側面があったこぶしファクトリーだが、そのメンバーがいなくなったことにより、どこかドライになったようにも見えた。

だけれども、アカペラで5人それぞれに役割が出来たことに、パフォーマンスでの結束は今までよりも何倍も強くなっているように外からは見えた。
実際、解散の前からアカペラの完成度の高さから新メンバーの加入案に否定的なコメントをメンバーがすることがあった。それだけ本人たちも5人のチームワークに自信を持っていたのだろう。とはいえ、プライベートな面ではマイペースなメンバーが多いこぶしファクトリー。その5人たちをまとめているのがリーダーの広瀬彩海という印象だった。そして、そのことは今回の解散の遠因にもなったように思える。

2020年1月8日、こぶしファクトリーは3月30日TDCホールを持って解散することを発表した。解散の理由は色々と言われたが、解散発表の文章、本人たちがのちに語ったことから推測するとリーダー広瀬の音大進学(による脱退)をきっかけに、個々のメンバーが考えた上で判断したもののようだった。

井上玲音ハロプロに残る選択をしたが(後にJuice=Juiceへの移籍を発表)、エースである浜浦は今後も芸能活動を続けていく意思を示しつつも、ハロプロは卒業する意向を示した。その理由として、自分が残ると(新メンバーを入れて)こぶしファクトリーが続いていくからと語っていた。やや人見知りの浜浦にとって照れ隠しでもあったかもしれないが、5人の結束と完成度が強く、そのことへの拘りの強さが解散という結論に至った大きな理由の一つであっただろう。
こぶしファクトリーの武器であった結束の強さや完成度の高さが裏目に出た解散発表であった。でも、逆にいえば、本人たちが語るのを聞けば聞くほど、結論は悲しいけどあまりにも間違っていない、納得するしかない解散の理由だった。そう、こぶしファクトリーの5人はどこも間違えていなかったのだ。

無観客ライブでの解散へ

決まった以上、残り少ない期間を応援するしかない。しかし、そこでこぶしファクトリーの前に立ちはだかったのはコロナ禍だった。
解散までに予定されていたイベントも次々に中止に追い込まれた。とはいえ、他のハロプログループのイベントよりこぶしファクトリーのイベントの中止のお知らせは明らかに遅かった。事務所もなんとか実施しよう、という意思を感じたが、やはりコロナウイルスの流行には勝てず、ほぼ中止に追い込まれた。そして、最後まで発表が保留されていたラストライブもLVとCSでの中継のみの無観客ライブが決定した。

無観客ながらも、楽しくて最高で素晴らしい解散ライブだったことは書くまでもない。無観客であることを一番痛感しているのはがらんとした3000人収容のホールでコンサートしている本人たちであるだろうに、それを感じさせない熱いパフォーマンスだった。井上玲音が「今日のために買ったんですよ」って言いながらタブレットTwitterの反応を見始めたのも笑った(れいれいはアップフロントに経費回してほしい。年度末だから早めに)。そして、「おらは人気者」をカバーで歌っていたこぶしファクトリーは、いつの間にか「辛夷の花」をイメージした白いドレスが似合う女性たちになっていた。

とはいえ、そんな最高のライブでありつつもずっと無観客の非現実感はあった。誰もがそこに違和感を持っていつつも言及したら空気が崩れてしまう緊張感もあった。だけれども、最後に一番しっかりして常にまとめてきたリーダーの広瀬彩海が泣きながら「ここにこぶし組のみんながいないなんて意味わからないよ」と言った瞬間、その緊張感が消え、メンバーとファンの感情が一体となって、最後を迎えた。

最後の曲はシャララやれるはずさ。こぶしの転換点になった2017年の曲で、前向きな明るい曲であるでともに、泣きのサビに歌唱力が必要とされるソロパートが挿入されるこぶしファクトリーらしい曲だ。タイムリミットが来る前に行けるところまで行った5人の今後の人生に明るい人生が待っていることを願ってやまない。


【ハロ!ステ#335】こぶしファクトリー ライブ 2020 ~The Final Ring!~スペシャル MC:岡村ほまれ&西田汐里